身になる法律

時効とは?|民法の取得時効を身近な例で分かりやすく解説

くじらおくん

時効ってよく刑事ドラマとかでみるやつですよね?

マッコ先生

刑事ドラマなどである”犯人の時効成立”などは刑法上の時効のことです

今回は意外と身近な民法上の時効取得時効について分かりやすく解説します!

刑法上の時効についてはコチラ

くじらおくん

民法上の取得時効・・?

頭んなかくん

長い間暮らしてきたから「このくじらおくんの土地はもうボクのものだ!」とかだよ
これを取得時効っていうんだ

くじらおくん

な・・なんてこと!

頭んなかくん

誰かのものを自分のものにするためには、いくつか必要な要件があるんだ
それを今回は解説するよ!

くじらおくん

要件を満たしていないと自分のものにできないってこと?

頭んなかくん

そういうこと!

マッコ先生

それでは頭んなかくんと取得時効について例を用いて分かりやすく解説しますヨー

そもそも時効ってなに?

時効とは時間の経過によって法的何らかの効果が生じるものです。

例えば他人のものを自分のものとして一定の期間持ち続ければ時効によってそのものを所有する権利が得られます。

くじらおくん

それってほんとうの持ち主がかわいそう・・

マッコ先生

そうですね
本当の持ち主からすれば納得できないことです
でも一方でこの法律がなければ困ったことも起こりうるんです
頭んなかくんそうですよね?

頭んなかくん

そうなんだよ
突然だけどくじらおくんが今住んでいる土地は”くじらおくんのもの”なの?

くじらおくん

もちろん”ぼくのもの”だよ!
ちゃんと証明する登記だってあるよ!

頭んなかくん

その土地は元々誰のもの?

くじらおくん

おじいちゃんから貰ったよ
ちゃんと証明できるよ
先祖代々から受け継いでいるからね!

頭んなかくん

じゃあそれってどこまで証明できる?
その先祖代々の以前は?
さらにその昔はどう?

くじらおくん

そんなの分からないよー
元を辿れば地球のものなんじゃ・・
えっでも地球は宇宙からできたし・・もしや宇宙のもの?
でも宇宙って”無”からできたっていうし・・ブツブツ・・

マッコ先生

ふふっ
迷宮入りしてますヨ
こんな風に無制限に遡るともはや本当にくじらおくんの土地なのか分からないですね
だから他人のものでも一定の期間持ち続ければ自分のものにできるという法律があるんです

“自分のものが他人のものにされる”時効という法制度は道徳的にみれば納得できないかもしれません。

しかし、長い年月が経過すればするほど「これは自分のものだ」などの事実を証明することは難しくなってしまいます。


無制限に年月を遡り争っていてはそれは膨大な量となり、裁判所も大変なことになってしまいます。

つまり時効とは、長く年月が経過すると権利関係を証明することが難しくなるから法的に時間制限のルールを作って制限しちゃいましょうという道徳的にはあまり納得いかないような制度なのです。

くじらおくん

なんだかモヤモヤするな~・・

頭んなかくん

法は人間がつくり出したものだから穴もあるってところです!
続いて時効の種類についてみてみよう!

時効の種類

時効には大きく分けると2種類あります。

1つ目は、ある一定の時間が経過すると何らかの権利を取得することができる取得時効というものです。

2つ目は、取得時効とは逆にある一定期間経過することで、何らかの権利が消滅してまう消滅時効といわれるものです。

消滅時効についてはコチラ!

時効を有効にするためには、いくつかの要件を満たし権利関係を証明しなければなりません。

くじらおくん

きちんと要件を満たさないと「時効です!」っていえないんですねー

マッコ先生

そうですヨ
それぞれ異なるルール:要件についてみていきましょう!

取得時効とは?

民法162条
1項 20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有したものは、所有権を取得する。

例えば・・AさんとBさんがお隣同士の場合
AさんがBさんの土地だと知っているのに境界線を越えてBさんの土地に入って畑を作ってその後も野菜を作り続けたとします。
Bさんが何の主張もしないで20年間経つとこの土地はAさんのものになります。

取得時効は、5つの要件を満たす必要があります。

  1. 20年間
  2. 所有の意思を持っていること
  3. 平穏
  4. 公然
  5. 他人の物を占有

それでは具体的に例をみていきましょう。

他人の土地を取得編

くじらおくん

しろくじ長の土地だけど
畑作って耕しちゃおうー!

・・しろくじ長、何も文句を言わず20年以上経過・・

くじらおくん

わぁ!
今年も豊作だなー!

しろくじ長

くじらおくんやー
ここはわしの土地ぞよ~!

くじらおくん

もう20年以上経ったからぼくのものだよー!

しろくじ長

な・・なんとー!

頭んなかくん

{頭んなかくん解説}

くじらおくんは20年間平穏公然と所有の意思を持って土地を所有。
この土地はしろくじ長のもの。
“他人の物を占有”の要件も満たしています。
結果、くじらおくんはこの土地の所有権を時効により取得できます。

くじらおくん

所有の意思を持って“・・とは?

頭んなかくん

{頭んなかくん解説}

“所有の意思を持って”とは「これはぼくのものだ!」など本人の個人的な意思により決まるのではなく、その権利自体に本来から備わっている特徴によって決まります。

たとえば・・
マンションを賃貸する場合、賃借権によってマンションを借ります。
賃借権は本来、“借りる”という所有の意思がない特徴をもつため、20年経ったとしても自分のものにはなりません。

しろくじ長

泥棒の場合はどうなるのじゃ?

頭んなかくん

{頭んなかくん解説}

泥棒は“所有の意思をもって”いるのでしょうか。

ここでポイントとなるのが占有権という権利。
占有権とはそのものを事実上支配できる状態にある権利のことです。
泥棒は原因はともあれ、事実上盗んだものを支配しているため占有権があります。

泥棒は”誰かのために占有する”わけではないですよね。
この泥棒がもつ占有は“自分のもの”として所有する特徴をもっているということになります。

・・ということで泥棒は“所有の意思を持って”いることになります。

しろくじ長

平穏、公然とはどういうことじゃ~?

頭んなかくん

{頭んなかくん解説}

平穏は、くじらおくんが無理やり奪っていないこと。
公然は、隠して周りに知られないようにしていないこと。
・・等ということです!

その手段が暴行・強迫などの違法行為によってされた場合は時効取得できません。

くじらおくん

ぼくがこの畑を耕していることみんな知ってるよー
無理やり奪ってないし・・

しろくじ長

ぐぬぬ・・確かにそうじゃ~

頭んなかくん

{頭んなかくん解説}

ちなみに先ほど泥棒でも取得時効の要件の一つである”所有の意思を持って”は満たしていると話しました。

たとえば、スリが観光地で他人のポケットからスマートフォンを盗み、取得時効の要件を満たして20年間占有を続けると所有権を取得できるということになります。

しろくじ長

しかし泥棒は罪に問われるはずじゃ

頭んなかくん

{頭んなかくん解説}

もちろん泥棒は犯罪ですよね。
スリは窃盗罪、忘れ物を盗んだ場合は占有物離脱横領罪です。

泥棒は、民法上の取得時効だけでなく刑法上の時効もあてはまることになります。
窃盗罪ならば窃盗罪の公訴時効といわれる時効です。
窃盗罪の時効は「犯罪行為が終わったときから」7年。

仮に7年間逮捕されず公訴時効が成立して、20年間取得時効の条件を満たして占有したとします。
この場合、取得時効にて盗品の所有権を得られる可能性はあります。
しかし、泥棒は“所有の意思を持って”占有したとはされず否定される場合もあります。

窃盗罪と遺失物等横領罪はコチラ

このように20年間平穏、公然、所有の意思をもって占有すると、他人の土地を取得します。長期取得時効といいます。
たとえ裁判になったとしても、くじらおくんはこの要件を満たしているのでしろくじ長に勝つ可能性があります。
くじらおくんが最初からしろくじ長のものと知っていてもです。

くじらおくん

しろくじ長の土地だと知らなかった場合はどうなるの?

頭んなかくん

知らなかった場合は期間が10年間となるんだ
売買の例でみてみよう!

他人のものだと知らなかった場合は、期間が20年間ではなく10年間で所有権を取得します。

民法162条
2項 10年間所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有開始の時に、善意であり、かつ過失がなかったときはその所有権を取得する。

  1. 10年間
  2. 所有の意思を持っていること
  3. 平穏
  4. 公然
  5. 他人の物を占有
  6. 善意(=知らなかった)かつ過失なし

購入した土地が実は他人の土地だった編

くじらおくん

おじじさん(祖父)が土地を買ったんだー
ぼくの大好きな甘藻を育ててくれるんだって!

しろくじ長

おじじさまは優しいのぉ

・・・何の問題もなく10年以上経過・・・

くじらおくん

しろくじ長ー
大変です!
実はおじじさんの土地の一部が他人のものだったみたい!
おじじさんは全く知らなかったみたい・・

しろくじ長

な・・なんとな!
おじじさんは登記はどうなっているのじゃ?

頭んなかくん

{頭んなかくん解説}

登記とはその土地などを持っているひとが誰なのかをハッキリさせるためのものです。

大抵、土地を購入したときはその土地の名義変更の登記をします。
ところが、登記は義務ではないため土地を購入したのに登記の名義は変更していないというケースもあります。

くじらおくん

おじじ変更してなかったみたいなんだよね・・

しろくじ長

じゃが、おじじさまは10年以上も問題なくその土地を使ってきたぞな
これは・・まさしく取得時効になるはずじゃっ

頭んなかくん

{頭んなかくん解説}

おじじさまは他人の土地が一部あるとは知らなかったことに過失がなく“所有の意思を持って平穏公然”に10年間占有。
その結果、おじじさま時効取得によって他人の土地を時効取得できる可能性があります。

くじらおくん

知らなかったことに過失がないって?

頭んなかくん

{頭んなかくん解説}

10年間の短期取得時効は“知らなかったことに過失がない”という要件がポイントです!

ここでいう”過失”は相当の注意すれば分かったのに他人のものであること発見できなかったなどの“注意不足はなかったか”が問われます。

くじらおくん

注意不足かぁ
登記を確認してなかったとかかなー

{頭んなかくん解説}

くじらおくん、いいところをついております!

過去に“過失あり”とされた例では、「登記簿を調べていない」、「売主が図面で境界を説明したのに買主がみていなかった」などが挙げられます。

くじらおくんのおじじさまが登記を確認していたのかなどの“知らなかったことに過失はなかったか”が取得時効と認められるのかに関わってきますね

くじらおくん

そうなのかー
さっそくおじじさんに確認してみるよ!

このように他人の土地と知らずかつ過失なく10年間平穏、公然、所有の意思をもって占有すると、他人の土地を取得します。
短期取得時効といいます。

取得時効により所有権を取得するには単に要件が満たされただけでは足りません。
その当事者や直接利益を受ける者が時効が完成したことを主張する必要があります。
これを“時効の援用”といいます。

まとめ

マッコ先生

いかがだったでしょうか
今回は取得時効について解説しました
最後にもう一度内容を確認してみましょう!

取得時効により”他人のもの”が自分のものになる

取得時効には20年の長期取得時効10年の短期取得時効がある。

長期取得時効と短期取得時効の要件の共通点は、①所有の意思を持って②平穏・公然と③他人のもの を占有していること。

短期取得時効は知らなかったかつ過失がないことも要件

{くじらおくんメモ}

ここまで読んでくれてありがとう!
おじじさんの例であったぼくの大好きな”甘藻”はぼくら『くじらもどき族』はよく食べるんだー
ジュゴンの主食なんだね
ちなみにぼくの大好物は”オキアミチップス”だよー

まだまだ頑張ってお勉強するから良かったらお付き合い下さい~